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執筆者の写真Ys ワイズ

グリーン・リカバリーと気候変動

更新日:2021年1月19日

コロナからの復興とSDGs


コロナによって2020年の経済活動は大打撃を受けました。一方で、気候変動からみたSDGsのゴール達成には好機にもなっています。世界中で社会経済活動が停滞したため、温室効果ガスの排出量が大幅に削減されました(図1)。通勤を制限されたことから、公共交通機関が大幅に減便されたことも一因です。特に、飛行機の運航への影響は大きく、ヨーロッパでは約90%もの減便が実施されました。


図1 世界の二酸化炭素排出量 (1990年から現在) 出典:BBC



この勢いに乗じて、コロナ終息後には今までと同じような社会経済活動ではなく、脱炭素社会を実現するような形で経済を復興させようという取組が世界中で始まっています。これを「グリーン・リカバリー」と呼びます。グリーン・リカバリーは、再生可能エネルギー技術開発や低炭素型の経済活動に投資することで、落ち込んだ経済活動を復興させることを目的としています。EUでは、「ヨーロッパ・グリーン・ディール」として、2019年から2024年までの期間で実施されるアクションプランが採択されました。


図2 ヨーロッパ・グリーン・ディールのアクションプラン



ヨーロッパ・グリーン・ディールでは、SDGsの達成で実現を目指す「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ」に従って、誰一人取り残さない社会を構築することを目的に、2050年までに温室効果ガスの排出をゼロにする・限りある資源の利用から経済成長を切り離す、といった目標が定められています。


気候変動対策のための投資

温室効果ガスの排出削減に寄与する技術開発は、平成17年の京都議定書の発効以来、活発に行われてきました。特に自動車産業でのガソリン・ディーゼル車から電気自動車やハイブリッド車への切り替えは目覚ましいものがあります。例えば英国では2050年までの温室効果ガス排出0の目標達成のために、2035年には化石燃料を使用する自動車の新車販売を禁止することが決まっています。世界の動向と合わせるように、日本政府も2030年度半ばをめどにガソリン車の新車販売中止の方針を打ち出しました。自動車の燃料の切り替えには様々な経済活動が伴います。例えば、ガソリンスタンドに代わり充電ステーションが導入されたり、一回の充電での走行距離を延ばすため、蓄電池の開発が進んだりすることが考えられます。このように、コロナ終息後の経済活動では、温室効果ガスの削減に貢献する技術開発や産業にESG投資が積極的に関与することが期待されています。


技術と制度による生活様式の変化

コロナ禍で私たちの生活様式は随分と変わりました。インターネットの普及によりオンラインでの通信や取引の手段は確立されていたものの、それを一気に浸透させたのはコロナによる社会活動の停滞でした。これを機に、社会活動のオンライン化の動きを積極的に活用する政策も現れています。地方では、過疎化や高齢化により地域経済に深刻な影響が表れており、これらの課題に対して都市部からの移住を進める政策を行ってきました。移住には、日々の生活の利便性と仕事の有無が重要になりますが、コロナ禍で外出が制限された環境では、この二つがオンラインで解決できることが明らかになったことから、地方でのデメリットが大きく解消されることになります。こうした動きをさらに促進するべく、政府は

まち・ひと・しごと創生基本方針2020」(左スライド)を策定し、5Gなどの情報通信インフラを整備し、デジタルによる新たな社会システムを地方に構築することで、都市部からの移住を促し、地域経済の立て直しを目指しています。厚生労働省もオンラインで医師が診察するための指針を立て、地方に住むことのデメリット解消を後押ししています。コロナ禍で広まった新たな生活様式は、これまでの技術を普及させるとともに、必要な制度を整えるきっかけとなり、これまでの社会の課題解決の糸口にもなっています。


気候変動対策に必要なパラダイムシフト

気候変動対策には社会経済活動の抜本的な見直しが必要であることは、これまでも議論されていました。しかし、慣れ親しんだ生活をあきらめてまで温室効果ガスの排出量削減に貢献することは、多くの人にとって難しいことでした。2020年はコロナの世界的な流行によって、図らずも今までの生活様式を変化させる「パラダイムシフト」が起きたことになります。感染予防のための外出制限により、不自由な生活を強いられましたが、そのおかげで二酸化炭素の排出量は大きく削減されました。しかしそれでも目標値には届きません。SDGsを含む国際的な環境政策では、2050年までに温室効果ガスの排出量を実質ゼロにすることを目指しています。この実現のためには、パラダイムシフトで生まれた新たな生活様式をさらに促進しながら、気候変動対策に資する革新的な技術開発への投資によって、SDGsの目的である世界の変革を行っていく必要があります。


 

出典

京都メカニズム開発推進事業(京都メカニズム関連事業)

JETRO 化石燃料車販売禁止まで15年、産業界が直面する課題とは(英国)

会社四季報オンライン コロナ禍で深化するESG投資

総務省 新型コロナウイルス感染症対策に対応するテレワーク関連施策情報発信について

みんなで育てる地域の力 地方創生


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